実家での、2週間の滞在期間が終わった。
以前、私が県外の自宅に戻った日の夜、「今日は帰ってこないの?お母さん、何も聞いていなかったから」と電話をかけてきたことがあった。
(認知症の母は、30分前の記憶すら抜け落ちてしまう)
それからは、貼り紙をしてくるのを忘れない。
離れている時は、毎日電話で、この貼り紙を一緒に読み上げる。
「〇月〇日まで、あと△日だから」と私が教えると、母は決まって「えぇっ、まだそんなにあるの?あと何回寝なきゃいけないの?」と大げさに嘆く。
帰省予定の前日、「もう明日帰るからね」という日まで、母の「まだそんなにあるの?」は続く。
私にとってはあっという間の1日でも、1人で家で過ごす母の1日は長いのだろう。
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今朝のこと。
次の帰省予定は2週間後。
「じゃあ、今日はお母さん1人なの?」
「これから、お母さんはどうしたらいいんだろう……」
と、朝から情緒不安的になるのも毎度のことだ。
帰り支度をする私も、バタバタと余裕がない。
イライラして怒ってみたり、なだめてみたり、ハグをしてみたり、の繰り返し。
置いていかれる母も不安と寂しさでいっぱいだろうが、私だって平気ではない。
小さい子のようにグズグズ言っている母をみていると、罪悪感でいっぱいになる。
母を残していく負い目があるから、余計に腹立たしい。
認知症のある母に「子離れしてよ」というのは無理な話だ。
私の中の感情だけでも「無」にできたら楽なのにと思う。
新幹線に乗ると、ようやく解放感と安堵感がやってきた。
キャリーバックを棚に上げるのが苦手なので、いつも一番前の席を予約している。
圧迫感があって苦手な人もいるようだけど、私は落ち着く。
窓の外には、いくつもの、綿を手でちぎったような雲が浮いていた。
白くて軽そうで、ふわふわしている。
爽やかな夏の風景。
綺麗だな。
癒される。
本を読んだり、まどろんだり、コンビニで買ったベルギーワッフルを食べたり。
見守りカメラに映る、スマホの中の小さい母の姿を確かめながら、帰路についた。
そういえば、今日の新幹線の車内チャイムは『いい日旅立ち』だった。
「ん?『会いに行こう』じゃないんだ?」
と思って調べたら、新幹線の車両の持ち主がJR東海かJR西日本かで、チャイムが異なるらしい。
知らなかった……