母は昔からマッサージが上手でした。
疲れて座っていると、よく肩を揉んでくれました。
あの頃からもうずいぶん経って、母は認知症になり、足も思うように動かなくなり、以前の母とは変わりました。
歩くのも、食べるのも、歯磨きをするのも、着がえをするのもフォローが必要な母。
それでも私がため息をつくと、以前と変わらずこう言うのです。
「ちょっと後ろ向きなさい。お母さん肩揉んであげる」
そういう時の母の声音は以前のように妙にしっかりしていて、
『お母さんのお世話で、私疲れたんだけど…』と内心ちょっと苦笑いしながら、それでも黙って母に背中を向けます。
母本人はどこまで認知症を自覚しているのか分かりませんが、遠くから手伝いに帰ってくる私のことを労わってくれているのかもしれません。
ずいぶん弱々しい力加減になってしまったけれど、それでもツボを探す要領は忘れていないようで、とても気持ちがいいです。
母「どのあたりがいいか、ちゃんと言ってね」
私「大丈夫、気持ちいいよー」
母に肩を揉ませているのが申し訳ないような、嬉しいような気持ちで、しばらく母に背中をあずけます。
一生懸命揉んでくれる母がとてもいじらしくて、同時に老いも感じて切なくなります。
頃合いを見て、「疲れたでしょ?もういいよ」と言うと、「もういいの?大丈夫なの?」と言いながら素直に手をはなします。
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あとどのくらい、こんな時間が持てるんだろう。
あとどのくらい、私を娘だと認識してくれるだろう。
母の肩もみは、私にとって母の愛情を感じる大切なスキンシップなのです。
・手に力が入らなくなったけど、その感触は昔のまま
・母がいずれ私を忘れても、私は母がしてくれたことを忘れない